命の落とし物

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 「実は、僕の病院から幸のアパートが見えるんだ。よく屋上で寂しそうに黄昏てたでしょ?病院からいつも見てた」  そう言った後に秀平は「あの日は本当にたまたま、君に近く出会いたくなったから会いに行ったんだ。それがまさかこんな風になるとは思わなかったよ」と、本当に悲しそうな顔で言った。  あの日、たまたま外出許可が下りた秀平は本当にたまたま、いつも病室の窓から見かける私になぜか近く出会いたくなったからあのアパートの屋上に来てみたら、これまたたまたま私がフェンスの外に出ていたので咄嗟に襟を掴んで止めたのだと言う。  「だって目の前で死なれたら後味悪すぎるでしょ」  先ほどのしおらしさなんて感じさせないほどあっさりとそう言い切った秀平は呑気に手を挙げて店員に新しくホットミルクを注文していた。  「前から私のこと知られてたなんて気恥ずかしいね」  「幸はわざわざ毎朝同じ車両に乗ってる人を意識したりするの?」   私は話の話の要領を掴めずに「へ?」と間抜けな声を出してしまった。  「僕にとって幸は毎日変わらない景色の一部だってこと」  「ああ、そういうことね。まあ確かにそうだよね」  「なに、気にかけてもらえてうれしいとか思ってるわけ」  「別にそういうのじゃないけど、ううん、いやそうだったのかも。ごめん」  「なんで謝るの?」  「ええ?それは、何か勘違いしてたみたいだから」  謝罪の理由を問われて、その答えに自信が持てず尻すぼみな返事をする私をしばらく秀平は何も言わずに眺めていたところでホットミルクが届いた。秀平はホットミルクには手を付けず、その後もしばらく私を見つめた後、静かに口を開いた。  「そうか、幸は今までずっとそうやって生きてきたんだね」  気まずくて目線を下げていた私が、その静かな声に顔を上に向けると、可哀想なものを見るような目とは違った、本当に可哀想な目をしていた。
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