命の落とし物

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 「なんでそんな目で私を見るの」  「理由はわからないし、きっと幸も無意識なんだろうけど、幸があまりにも自分に自信がないというか、自分の意思がないというか。そうやってずっと人生を過ごしてきたんだと思うと、幸も幸の人生も本当に心の底から可哀想。ねえ、そんなに人生が退屈なの?」  秀平のその問いかけに私はむすっとした顔で頷いた。実際そうなのだけれど、真実を直に突かれると、人間は誰しも気分がよろしくない。私が頷いたのを確認した秀平は、何か心を決めたかのような表情を一瞬だけ見せ、また口を開いた。  「そんなに退屈なら、僕の中で生きればいい」  その言葉がなにを意味するかくらいは、これまでの会話からもう十分に理解できた。しかしその選択を迫られると途端に威勢のなくなった私の姿を見て「なんだ、そんなものか。君の死ぬ覚悟は」と、低く怒ったような声で言い放った秀平は、すくっと立ち上がり、「次死にたくなるようなことがあったら連絡して。それまでは真剣に生きていたほうがいい。生きれるなら」と、いう言葉と、まだ湯気が出ている飲みかけのホットミルクを残し、去って行った。
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