モンシロチョウのなりそこない

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 真新しい傷口に絆創膏を貼る。最初の日は血が滲むのが気になるので、一度は新しい絆創膏と貼り替えるだろう。しかし、しばらく時間が経つと出血は止まり、傷口は自分の力で元の皮膚の形に戻ろうと活動し始める。するとその傷を負った本人、すなわち私は安心して絆創膏の貼り替えを怠るようになってくる。風呂にも絆創膏をつけたまま入り、浴槽に浸かるのも体を洗うのも、そして、パジャマを着るのも絆創膏をつけたままになり、その流れで新しい朝を迎え、周りは私が絆創膏の貼り替えをしていないのに勿論気づかないまま、またその日の夜を迎える。すると自然と傷口が痒くなっているということに気がつくだろう。この時はじめて絆創膏というものがとてつもなく邪魔者に思えるようになり外す。すると、この外した絆創膏の裏のガーゼと傷口の部分に赤茶色のドロっとした、まるでココアの粉とお湯との分量を間違ったかのような液体が付着していることを知るだろう。私にはこの液体の名前がわからない。しかしそんなことはどうでもいいのだ。私が言いたいことは、私の心の奥深くの暗くてしめっぽい場所に、名も知らないコイツが居そうな気がしてならないということだ。  モンシロチョウの蛹の中はドロドロの液体だといつの日だったか聞いた。なら、コイツもまた、傷跡(チョウ)になる前の瘡(さ)蓋(なぎ)のようなものなのだろうか。成長した傷跡(チョウ)は何になるというのだろうか。  春。かつてあなたが居た春。かつてあなたが立っていた、この季節。あなたはあの時一体何を思ってここ(春)に立っていたのか。また、立っている最中のあなたの瞳は、私の、過去、現在、未来、のどこに向けられていたのだろう。それが今、無性に知りたい。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!