モンシロチョウのなりそこない

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「桜の花びらが風に舞うように、君たちひとりひとりも今、この瞬間からそれぞれの目的地を目指す旅が始まるのです。人生とは、命が燃え尽きる最期の時までが旅なのです。すべて冒険なのです。偉くなんてならなくていい。人間らしく自分の心が満たされる世界を目指して、その長い長い旅を楽しんでほしいと思う。本当に卒業おめでとう」  黒板の前で目の周りを赤く腫らした担任はこの日の為に何日もかけて考えたであろうその言葉をすべて出し切ると、今度はクラスの生徒の名前を次々に呼び上げていった。  自分の意志とは無関係に付けられた、私にとって機械のシリアルナンバーを連想させる「名前」という名の記号で呼ばれ、次々と起立していくクラスメイトをまるで映画を観るかのように客観的に眺めているとなんだか眠たくなって、私は視線を窓の外の誰もいない校庭のまだその奥の街並みに移して、このくだらない一瞬の儀式をやり過ごした。
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