命の落とし物

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 さあ、もうフライトだ、飛ぼう。  私は心の中で力強くそう呟き、まずはフェンスから両手を離した。そして、上半身を前方へ傾け、重力に従って落ちていける体制をとった。少しずつ私の体は傾いていき、徐々に落下していく。はずだった。  私は無意識のうちに硬く結ぶように閉ざしていた瞼を恐る恐る開くと、若干体は傾いているものの、落ちていく気配がない。ふと、襟が首に食い込んで息苦しいことに気づく、。まるで何者からか後ろから襟を引っ張られているような、そんな感覚だった。  きっと襟がフェンスに引っかかっているのだろう、そう思って疑わなかった私は当たり前のように手を首に運んで、引っかかっている部分を解放しようとした。  襟に引っかかっているそのところに触れた瞬間、勢いよく手を離してしまった。引っかかっているものが、予想していたものと違い、柔らかく、暖かいからだ。本当に驚くと、人は声が出なくなるというのは本当らしい。しばらくすると、襟は引っかかっているのではなく、誰かの手によって掴まれているのだと気づいたが、それでも何が起きているのかわからず、ただただ混乱と恐怖で沈黙していた。  「捨てるくらいなら僕にくれよ」
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