命の落とし物

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 「お父さんもお母さんも、自分たちの希望を乗せて『幸』なんて名前付けたのにこれじゃ名前負けもいいとこだよね。がっかりしてるよ、きっと」  「そういや、親御さんはどうしてるの」  私の父と母は、二人とも同じ職場で働いていて、建築物のデザイナーをしていた。私が中学生のころに、街のショッピングモールの建設にあたって、他の大手と戦って見事父のデザインが採用されたので嬉しさのあまりに母を連れて現場に見学に行っていたところ、鉄骨が落下してきて、二人とも即死だったという。  当時私は中学二年生だったので、両親の葬式の後から父方のおばさんに引き取られ、無事に中学を卒業できた。高校からは、アルバイトもできるので、自らの希望で一人暮らしを始めた。幸いにも、両親の貯金もあったのでお金で困ることはあまりなかった。そんな高校生活も終わり、今に至るといった具合に私は目の前でココアのクリームだけをスプーンで掬って食べている秀平に説明をした。
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