ひとくい村 病院

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ひとくい村 病院

刑事なんかやっていると色んな話が耳に入るが、その村の黒い噂は絶えない。 村に関わる者や旅行者の失踪。 秘密裏に行われているという人体実験。 殺人鬼の隠れ家 カルト教団 挙げ句の果てには幽霊や怪物の目撃談 眉唾や怪談に背鰭尾鰭がついて一人歩きしたような胡散臭いものも多い。 だが村の周辺を調べると膨大な数の未解決事件が現実に起こっているのだ。 しかもこれらの事件がまとも捜査されている形跡がない。 上司に聞いてもはぐらかされるばかりで話にならない。 しつこく食い下がる俺に上司は震える声でこう言った。 「あそこには関わるな。」 その後、上司は時期外れの配置換えで別の土地へ転勤していった。 あの村には何かある。 俺は確信している。 必ずそれを突き止め、真相を暴いてやる。 「ひとくい村」で失踪した恋人のために。 エレベーターで地下に降りた先の研究室にそいつはいた。 手術台の死体から赤く濡れた臓器を取り出したところだった。 「なんだね?君は?」 生臭い血の匂いの中、作業は止めずにこちらを向く。 声の質からすると恐らく中年男性だろう。 予想でしかないのは男の顔に巻きつけられたミイラのような包帯が左目以外の人相を隠しているからだ。 白衣は着ているが包帯のせいで患者か医者かわからない。 だが解剖しているところを見ると医者なのだろう。 しかし奇妙な奴だ、 俺は迷わず拳銃を構えた。 「おやおや、随分と物騒だな。 強盗かい?」 ミイラ男は解剖をやめて降参するように軽く両手を上げた。 だが動揺や不安は全く伝わってこない。 それどころか、余裕さえ感じる。 いやこの状況を楽しんでいるかのようだ。 「おまえは何者だ?」 問いかけに包帯が歪み、ヒッヒッと不気味な声が漏れた。 どうやら笑っているようだ。 「私かい?私は医者だよ。診察希望なら時間外だが?ヒヒヒ」 また笑う。 気味の悪い男だ。 人体実験の噂の元凶はこいつか? 手術台の死体に目がいき、ふとそう思った。
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