ひとくい村 病院

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「で?用件は?」 俺は拳銃の狙いを外さずに内ポケットから出したヨーコの写真を突きつけた。 「この女に見覚えはあるか?」 ミイラ男はしげしげと写真を見てうーんと首を捻った。 「すまないがたくさんの患者を診るものでねぇ。顔などいちいち覚えてないのだよ。」 すまないと言いながら全く悪いと思ってないのが伝わってくる。 犯罪者の中には良心の呵責や後悔など微塵も感じない者がいる。 こいつはそれと同じ匂いがするのだ。 何か隠しているのか? または只のおかしい医者なのか。 「よくみろ!1年前にここへ来たはずだ。」 再度写真を近づける。 ミイラ男はやれやれといった感じでもう一度写真を見始めた。 その瞳が猫のように細くなる。 「病状は?」 ぼそりといった。 「なに?」 「だから!病状を聞いているんだ!ここは病院だぞ?健康な奴がくるところか?少しは頭を使えマヌケ!」 イライラしたように声を荒げた。 俺はこの男の異様な雰囲気に気圧される。 「ヨーコは心臓が悪かった。」 「1年前・・・心臓疾患・・・二十代女性・・・」 ミイラ男は写真をじっと見ながらぶつぶつと呟いている。 そして 「思い出したよ!患者番号526か。」 こいつはヨーコを知っている! 俺は動揺で拳銃を握る手が震えるのを止めようと必死に狙いを定めた。 「今、ヨーコはどこにいる!教えろ!」 「いや」 脳の芯が冷えるような感覚 口に出したくない。 しかし俺は荒い呼吸の間から声を絞り出した。 「ヨーコは生きているのか?」 「彼女は」 それを聞いた男の目に異様な光が宿った。 「彼女は完治した」 ヨーコは病気が治ったのか! 医者に匙を投げられ、余命宣告までされた彼女の病気が。 最悪の予想を裏切る答えに俺は安堵した。 しかし答えには続きがあるはずだった。 「どこだ」 「ヨーコはどこだ?」 ブルブルと一層手が震える。 「まあそう興奮しないでくれ 。 その震える指が引き金を引きそうじゃないか。」 「うるさい!早く言え!」 「彼女はここにいる。」 衝撃だった ヨーコがここにいる? もう一度会えるのか 「ところで」 「君は彼女のなんなんだい?」 男に問われ恋人だと言う。 「そうか!心配しなくても会わせてあげよう。ヒヒヒヒ」 嬉しそうに笑う男は俺の胸の内を見透かしているようだった。 この男の気味悪い笑いも今は気にならない。 「早く、早く!会わせてくれ!」 俺は懇願していた。
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