ひとくい村 病院

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「では私についてくるといい」 俺は男の後をついてエレベーターに乗った。 「失踪した恋人を探しにここまで・・・実に素晴らしい・・美しい愛情・・ヒヒッ・・クククッ」 呟き続ける男はとてもまともには見えない。 だがついていくしか選択肢がなかった。 一階に戻り、いくつかの通路と部屋を通ると男はひとつの扉の前で立ち止まる。 「彼女はこの部屋の奥にいる。」 笑みを浮かべる男を押しのけて扉の中へ走り込んだ。 「ヨーコ!ヨーコ!」 叫ぶが返事はない。 部屋の中は薄暗く、いくつものガラスケースが並んでいる。 中には鳥や魚の剥製が入っているようだ。 異様な雰囲気に気付く余裕は俺には無かった。 「どこだ!?ヨーコ!」 俺はケースの間を縫うように奥へ進む。 ・・・ケ 誰かの声が微かに聞こえた。 ヨ・・ケ たしかにヨーコの声だった。 ヨーコ! 声の方に走る。 ヨウスケ 目を疑う光景に俺は絶句した。 それは展示台のような物の上にいた。 肉の塊、人間をクッション型に成形したような奇怪なオブジェ。 死体か?いや、脈打つ表面は確かにこれが血の通った生物であることを示している。 そしてー この一年忘れもしなかった顔。 なんども夢に見てずっと会いたかった顔。 その肉塊の中心にはヨーコの顔があった。 「ヨウスケ」 その唇から再度俺の名前が発せられた時、俺は絶叫した。 パチパチパチ 「ヒヒヒ!感動の再会、ではなかったかな?」 背後から声が響く。 振り返るとミイラ男が拍手をしながら立っていた。 「おまえっ こんな」 正気と狂気の限界、目眩と吐き気、今にも倒れこみそうな震える膝をなんとか立たせた俺は拳銃を構えながら泣いていた。 「私は彼女を治療したのだ。」 男はもう笑ってはいなかった。 「こんなっこんな姿にしておいて治療だと!ふざけるな!」 ヨーコを化け物に変えたこいつを許さない。 「彼女は生きたいと私に願った。」 男は拳銃など目に入らないかのように俺の横を通り、ヨーコの前で立ち止まる。
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