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止めを刺そうとナイフを引き抜きー
抜けない!ナイフは岩にでも食い込んだようにがっちりと男の腹に固定されている。
そして衝撃
俺は壁まで吹き飛び背中から叩きつけられた。
痛みで呼吸が出来ずヒューヒューと細い息が漏れる。
「やってくれるねぇ」
霞む視界に見えたのは男の異形化した右腕だった。
膨らんだカマキリの鎌を人間サイズにしたような奇怪な腕。
さらに破れたシャツの腹に見えるのは俺が裂いた傷口
ではなかった。
何重にも牙がならんだ鮫の大顎がナイフをぺっと吐き出す。
そこから出ている舌のようなものは俺を掴んだタコの触手だ。
「防御反射で思い切り殴ってしまったよ。すまなかったね。」
化け物め
「この腕はシャコのものと同等の機能を持っていてね。シャコの打撃は時速80キロを超えるんだぞ?素晴らしいだろ?余りの早さに周りの海水が沸騰するのだ。
この大きさで受けたら車に衝突されたような衝撃だったはずだが。いやいやこんな事を言っている場合ではないか。」
ゆらゆらと奴が近寄ってくる
体が動かない。
ひとつ目がぎろりと俺を覗き込んだ。
「ああ、だいぶ壊れてしまったなぁ。しまった。」
奴の口からは溜息が漏れ、俺の口からは血が溢れる。
「心配はいらないよ。私が責任を持って治療しよう。」
やめてくれ 頼む やめてくれ
俺はこのまま、人間のまま死にたいんだ。
「ではおやすみ。」
薄れる意識の中、俺が最後に見たのは巨大なサソリの尾に変化した奴の左腕が俺に迫ってくる光景だった。
数ヶ月後ー
「ぞる先生、また作ったんですか?」
眼帯をつけた看護師が呆れたように言った。
「いやぁ仕方ないじゃないか」
ミイラのような男はぽりぽりと包帯頭を掻く。
「無駄に増やさないで下さい。実験体の世話するのは私なんですから。」
看護師は怒ったように言う。
「ははは・・・君は厳しいな。
ああ!そろそろ回診の時間だ。」
ぞるは逃げるように去っていってしまった。
「あ、また逃げて。全く」
看護婦はそう言いながら展示台をみた。
男の顔がついた肉塊と女の顔がついた肉塊が隣同士、寄り添うように置かれている。
それは異形の姿にも関わらず、なぜか穏やかな表情をみせている。
「なんだか幸せそうね」
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