ひとくい村の日常

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ひとくい村の日常

「ねぇ、あれみえる?」 「どれ?私はみえないなぁ」 「え?みえない?あんなに黒いのに?」 食事のコーヒーを運ぶえどげいんの耳に入ったのは女性二人のそんな会話だった (ん?) その会話が気になり耳を澄ませる 「あそこに黒い煙みたいなのが見えるんだけどなぁ」 一人が指差しているのは店の隅に位置した席だ 普段から照明の光が届かないので薄暗く、余り客が座らない まあ死角的な場所なのでえどげいんは気にしていなかったのだが 「角度で影がみえるんじゃないの?気のせい気のせい」 「そうかなぁ・・・」 友達に諭されて納得したのか二人の会話は彼氏がだの美味しいスイーツだの違う話に流れていった しかし、えどげいんだけはじっとその席を見つめているのだった 「君さ、いつまでいるの?」 客が居なくなった店内でえどげいんが一人喋っている 「迷惑なんだよね。営業妨害だよ」 彼が話しかけているのは誰も座っていない店の隅にある席だ 「いつもは無視するくせに」 声がしたと思うと空間から染み出すように黒いワンピースと白いシャツを着た女の子が椅子に座った姿で現れた 年は18歳くらいか 茶色い髪にメガネをかけた彼女はムッとした顔でえどげいんを睨む 「こづさん、幽霊に構うほど暇じゃないんですよ」 えどげいんはふうとため息をついた 「私を殺したのはあなたでしょ?」 こづは椅子から立ち上がると背中を向けた 背中は真っ赤に染まり、裂けたシャツの隙間から赤黒い傷口が開いている 「あれは・・・」 えどげいんは何か言いかけて口を閉じた 「なによ?少しは気にしてくれない?」 こづの問いかけににやりと笑う それはいつもの爽やかな笑顔ではなく黒を含んだ笑顔だ 「僕は殺人鬼だよ?これまで何人殺したと思ってるんだい?殺したやつが全部幽霊になったらいったい僕は何十人と話をしなくちゃならないのかなぁ?」 殺した人数さえ覚えてないのにと付け加える
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