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看護、介護と事務、私達ワーカーを合わせて十五人程度の歓迎会。配属された新入職員は二人。どちらも女性で、まだ学生気分を引きずる新卒の看護師だ。
黒川主任は看護師長が欠席なのをいいことに、その新人二人を両脇に抱え、上機嫌で酒に呑まれたフリをしている。紛れもなく、彼は素面だ。粗方、自分のご立派な看護観やら病棟の在り方やら、師長の愚痴やらをくとくどと語っているのだろう。新人たちは酔っているのか、ケラケラと声を発てて笑っている。
程よく酒が回ってくると次第に声のトーンも上がり、皆各々に自分の話で精一杯の様だ。
私達の宴会場は座敷で、襖で仕切られた真ん中の部屋。両隣でも宴会をしているのだろう、騒ぎ声が止まない。
宴会が始まってもうすぐ三時間。隣で頑張っている鹿生の前にある瓶ビールを自分のグラスに注いで、瓶を空にしたついでにグラスも一気に空にして、私は席を立った。
「木元さーん! どこ行くのぉー。まだぁ酒はぁ、これから! ねぇ! あ、お姉さんお姉さん瓶ビ追加でぇ三本もらっちゃおうかなぁー!」
恥ずかしい程に酔い潰れている同僚に振り返ることなく、聴こえる声に溜め息を吐きながら靴を履く。視界ははっきりしているし、足も全くふらついていない。今日も無事に帰れそうだ。
女子トイレの扉を開けるとふんわりとした薫りが漂い、扉を閉めれば外の音は遮断され、一息吐くには充分な、静かな空間を作り出している。
私が個室を利用していると、勢い良く扉がぶつかる音と同時に、慌ただしいヒールの音、何かを何処かにぶつける様な鈍い音。
そして、間も無く彼女は嘔吐した。盛大に。
服を整え個室の扉をそっと開けると、向かいの個室の扉は開け放たれ、投げ出されたほっそりとした両脚と、脱ぎかけの靴。便座に寄りかかって座り込む後ろ姿が見えた。顔の見えない彼女はなおも口からの排泄をし続ける。
「大丈夫ですか? 我慢しないで、吐けるだけ吐いちゃって下さいね」
彼女の側に寄り、背中を擦る。もちろん、手を洗ってからだ。彼女はすみませんと、なんとか聞き取れるほどのか細い声で、絞るようにそう言った。
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