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自覚と、初恋と、はじめての性行為と、すべてが同時に襲ってきてどうしたらいいのかわからない。
小峰にとっては親切でしたような行為のはずだ。それなのに、それをきっかけで好きになってしまったなんて、恥知らずにもほどがある。
「も、もう。忘れてください。俺が悪いんです。こ、こんなこと、させてしまって。本当にすいません」
もう消えてしまいたい。二丁目に来る前に一気に巻戻して欲しい。そしてちゃんと真っ当に小峰を好きだと自覚したい。猛烈な後悔に襲われて、泣きながらただ「忘れてください」と繰り返していると背中をなでていた小峰の手が止まった。
「……忘れた方が、いいの?」
低い声で言われ、びくりと肩を震わせつつ頷いた。
「でもさ、自分がゲイなのかどうか知りたかったんだよね。それはもういいの?」
「それは……」
こんなことになってしまって、それはもういいですと言うのも失礼になってしまうだろうか。まだ早すぎる鼓動のせいでまともな思考ができない。すぐに答えられずに狼狽えていると、「じゃあこうしようと」身体を離し、顔を覗き込まれた。
「俺のこと、好きになれるか試してみようよ」
「……え?」
「そうしようよ、ね」
いい考えだと目を輝かせる小峰の勢いに飲まれてしまった。
そういえば、小峰はこういう人だ。
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