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何曲か演奏し終わると小春が「休憩っ」と言っていつものお菓子を食べ始めた。僕もまたいつものように運指の練習を続けていたんだけど、晴明が難しそうな顔で黙っていたので、 「どうした?」と聞いた。 「来月さ、音楽祭あるじゃん?」 音楽祭とはいわゆる合唱コンテストのことで、市内の文化ホールを貸し切って、各クラス対抗で合唱曲を披露する行事だ。新しく入学してきた一年生にとっては初めての学校行事だし、順位が発表されるからそれなりに盛り上がる。 「俺流れで音楽祭実行委員やることになっちゃったんだけど、今年有志で出演する団体が足りてなくてさ、尺余って困ってんだよ」 音楽祭にはクラス合唱の他に吹奏楽部による演奏と有志団体発表の二つがある。他にも音楽系の部活がある中吹奏楽部だけ特別扱いなのはやっぱり結果を残しているからで、それは仕方ないとして、問題はこの有志団体発表で、ここもほとんど軽音楽部のバンドのための時間になってしまっている。だから毎年ジャズ部やギター部は音楽祭には参加していなかった。 「いつもバンドがやってるじゃん、有志」 「それがさ、今年の音楽祭の日程と、何か人気バンドのライブが被ってるみたいで軽音部の連中皆サボるらしいんだよね、音楽祭」 「ロックだね」 僕は半分面白がって、半分感心しながらそう言った。 そこで晴明は頭の上で両手をパンッと合わせて、 「だから頼む!二人で有志出てくれないか!」 と言った。
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