6/10
前へ
/36ページ
次へ
僕は黙ったまま小春の方を見た。小春は相変わらず口にチョコを付けて、僕たちの話を聞いていたのかも分からない調子で「んまー」と笑っていたけど、僕の視線に気付いて顔を上げると、晴明に向かって「ん」とだけ言った。この時の「ん」は「うん」の「う」が無くなったようなイントネーションで、晴明はそれを聞いて「おっ、ありがとう!」と言って、今度は僕に「結多どう?」と聞いてきた。 「さっきみたいな感じでよければ、全然良いよ」 「マジかぁー!ホント助かるよ、ありがとな!」 と言いながら晴明は握手をしてきた。 それはそうと、さっきのような「ん」だけの意思疎通とかそういったものを見せられると何だか二人の間で流れている時間と僕一人に流れている時間が全然違うもののように感じられてしまう。僕たち一人一人に時間が流れているのと同時に、僕と小春、小春と晴明、晴明と僕、そして僕たち三人全体でもそれぞれ別の時間が流れてて、やっぱりその中のどれも小春と晴明の中に流れる時間には勝てない気がしてしまう。勝ち負けなんて本当はないんだろうけど、僕の中でそれが何故か「負けた」という言葉で表されてしまう。きっとこれはさっきの「晴明が不誠実に見える現象」とも関連しているんじゃないかと思うけど、やっぱりそれが何なのか、答えは見つからない。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加