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晴明はメニューも見ずにいつもの醤油ラーメンを頼んだ。さっきの店員さんが「はい醤油二つー」と言って、そして厨房から「醤油二つ!」と聞こえてくる。僕たちがこうして来るといつも晴明が真っ先に醤油ラーメンを二つ頼む。きっと他の人と来た時も同じようにしているんだろう。僕はと言うと、たまにはいつもと違うものが食べたいと思うこともあるんだけど、この店のメニュー表はあり得ないくらい油で汚れていてあまり触りたくないので、結局晴明に任せて醤油ラーメンになってしまう。
「だから今日は奢らせてくれ」
「分かった、じゃあお言葉に甘えて」
「小春にも何かお礼しないとな」
「小春なら、いつも食べてるあのお菓子でいいんじゃない?」
と僕は笑いながらそう言ったんだけど、意外にもそれは晴明には伝わらなくて、
「お菓子?いつも何か食ってるっけ?」
と言った。
「今日も食べてたじゃん、チョコレートの」
「あぁー、確かに食ってたような気がするような……」
意外だった。小春について僕が知っていて晴明が知らないことがあるとは思いもしなかったからだ。たとえそれが「お気に入りのお菓子」程度のことであっても、それすら晴明は知っているはずだと勝手に決めつけていた。
そんな僕の驚きをよそに晴明は続けた。
「お前らって仲良いよなあ。やっぱ一緒に音楽やってると、なんて言うの?以心伝心的な?感じになるのか?」
「いや、そんなことないよ。僕よりも晴明の方が仲良さそうに見えるよ」
「まあそりゃ幼馴染だから知ってることは多いけどさ、結多と小春の関係はまた別の感じって言うか……」
と言ったところでラーメンが来て、
「おっ来た!腹減ったぁ」
と晴明が言ってこの話は何となく終わってしまった。
僕はラーメンを食べながらずっとモヤモヤしていたんだけど結局晴明が言いたいことも自分が感じていることも上手く消化できなくて、ラーメンと一緒に胃に溜まっていくようだった。
ラーメンも食べ終わり外も暗くなってきて晴明が、
「あ、ヤベ、そろそろ運動部の連中来るな。混む前に帰ろうぜ」
と言ったので帰ることにした。
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