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僕はずっと音楽は技術が全てだと信じてきた。良い演奏というのは高い技術力を持ったミュージシャンがするもののことであり、必死にテクニックを磨いて上手くなれば自分も「良い演奏」ができる、それを信じてここまで頑張ってきた。 でも小春と出会ってから僕には何かが足りないんじゃないかと思うようになった。初めて小春のピアノを聴いた時、正直「普通だ」と思った。でも一緒に演奏すると、今までに感じたことのないような安心感というか、音で包み込んでくるような感じがして、僕は小春が、僕の持っている力を何倍にも引き出してくれているんじゃないかと思った。でもその時、僕は怖いと思ってしまった。今まで僕が信じてきたものが覆されるんじゃないかと思ったのだ。それでいつのまにか僕は演奏中、小春に対してフィルターのようなものをかけるようになってしまった。 本当は分かってる。僕はもっと学ぶべきだ。小春からも晴明からも。でも今までずっと信じてきたことを変えるのは、そんなに簡単じゃない。
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