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拓篤兄さんは僕が行くといつもコーヒーを出してくれる。流石カフェをやっているだけあって、素人の僕にも拓篤兄さんのコーヒーの美味しさは分かる。 テーブルに上には僕と拓篤兄さんのコーヒーが並んでいて、拓篤兄さんは甘党だから夢中で角砂糖をコーヒーに溶かしている。 「兄さん、それ入れすぎじゃない?」 「一応店やってるからブラックで味見することもあるんだが、やっぱりコーヒーは甘ければ甘いほど美味いもんなんだよ」 と拓篤兄さんは眼鏡を手の甲で上げた。これは拓篤兄さんの癖で、昔からお菓子ばっかり食べていた兄さんは「お菓子で手が汚れていても眼鏡を汚さないようにこの方法を編み出した」と言ったいた。 しばらく二人黙ってコーヒー飲んでいると、 「で、部活の方はどうだ?楽しいか?」 と兄さんが聞いてきた。 「うん、まあ楽しいよ」 「そうか、それは良かった。音楽は楽しまないと上手くならないからな」 僕は黙ってコーヒーを飲んでいたけど、内心ハッとしていた。兄さんがまるで小春と同じようなことを言うからだ。僕は少し考えてから、聞いてみることにした。 「音楽を楽しむって、どういうことなんだろ」 「そりゃお前、息吹いたらいろんな音出んだぞ、楽しいに決まってるだろ。何でも、音が出てれば、楽しいもんだ」 兄さんが真剣な顔をしてそんな風に言うので、僕はつい笑いそうになってしまった。拓篤兄さんは見た目や話し方から、一見すると頭が良さそうに見えるけど、昔からこういう、感覚というか直感のようなもので生きている人だった。でも、だからこそプロになれたのかもしれない。 「それは……そうだね」 僕が笑いを堪えながらそう言うと、 「何で笑ってんだ?」 と兄さんは不思議そうに首を傾げていた。 「さ、練習しよ」 しばらく僕は笑っていた。
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