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去年の春から僕はこの高校に入学してジャズ部に入ったんだけど、先輩たちは今年で皆卒業してしまって残った部員は僕と小春の二人だけになった。それからは練習というよりも即興のセッションが活動の中心になっていて、僕たちはこうして毎日放課後に集まっては自由に演奏している。 二人になってから何となく定位置にようなものが決まっていて僕は小春の弾いているグランドピアノに寄りかかるように立ってトランペットを吹くことになっているんだけど、なぜそうなったかと言うと、演奏中僕が小春のことを見れないからだ。僕は小春のピアノが大好きだった。小春のピアノには不思議な引力のようなものがあって、つい聴き入ってしまう。しかしそれと同時に自分の音がとても予定調和な音のように感じられて辛くなってしまって、いつからか僕は演奏中、小春のことを見ることができなくなってしまったのだ。 セッションのルールというか基本的な流れで、トランペットなんかがソロをやっている時は後ろでピアノが伴奏するんだけど、その逆で他の楽器がソロをやっている時はトランペットが伴奏することは基本的にない。そういう時は大体ドラムやベースが伴奏することになっているんだけど、あいにく僕たちは二人しかいないので、小春がソロをやっている間僕は手持ち無沙汰になる。こういう時本当は彼女をことを見て、音と演奏している姿に集中することが正しいんだろうけど、彼女のことを見れない僕は音だけ聴きながら視線はいつも違う方を向いている。
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