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それから僕たちは見回りの先生に怒られるまで演奏し続けた。
廊下はすっかり暗くなっていて、いつもなら帰る時はまだ練習している運動部も今はもう終わっているようで、掛け声は聞こえない。僕はすっかり疲れ切ってしまって会話する気力も無かった。小春も疲れているのかいつものような元気はない。しばらく経って小春が、
「怒られちゃったね、へへ」
と言った。
「ごめんね、僕がわがまま言ったせいで」
「ううん、良いよ、わたしも共犯者宣言したんだから」
そう言っている間、小春は僕のことは見ずにずっと前だけ見て話していた。いつも小春は僕のことをからかう時、下から覗き込むように僕の目を見る。つまり今は僕をからかう余裕もないということなのだろうか。今、僕は珍しく小春ともっと話したいと感じていた。さっきの演奏について感じたことや音楽に対しての姿勢なんかをもう一度小春に聞いてみたかったのだ。今ならもっと素直に小春の言うことを理解できると思ったから。しかし僕のわがままに付き合わせた挙句、かなり疲れさせてしまったようなので、僕も黙った前を向いたまま歩き続けた。
結局その後は特に何も話すこともなく「じゃあね」と言って別れた。
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