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再び小春はピアノを弾き始めた。大体いつも曲を決めるのは小春だった。というかいつも小春が好きな曲を勝手に弾き始めて、僕がそれに合わせる。これは……『My Favorite Things』。今の会話の続きのつもりだろうか。 会話といえばさっき小春が言っていた「楽しみたいって方が勝つ」という言葉。これはつまり小春にとって練習は楽しいものではなく、それとは別の部分に楽しみが存在しているということだろう。僕にとって音楽と練習はほとんどイコールで、練習して演奏が上手くなることが「楽しみ」であり、練習以外に楽しいことなんて思い付けない。だから小春の言う「楽しみ」が僕には想像もできなかった。 その時、一年と少しの部活の付き合いで、学校の友人としてはよく知っている方であるはずの小春の中にまだ知らない、見えない部分があるということを感じて、それが頭の中で黒い影のようなイメージで現れたんだけど、不思議とそれはネガティブな感情は産まず、むしろそれは僕をワクワクさせた。でもどうしてワクワクするのか、それは分からなかった。自分自身の感情のはずなのに。 そんなことを考えながら演奏していたらいつのまにか十八時になっていて、終業のチャイムが鳴ったので僕たちは帰ることにした。
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