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いつも不公平に感じているんだけど、なぜか運動部は終業のチャイムが鳴った後もしばらくは練習を続けられるという暗黙のルールが出来ている。僕たちは時間によって活動時間が縛られているけど彼らは時間ではなく「暗くなるまで」が活動時間として与えられているのだ。四月も中頃となると十八時でも明るい。だから校内にはまだ運動部の掛け声が響き渡っていた。
帰り、二人で廊下を歩いている時、僕は小春にさっきのことを聞いてみることにした。
「あのさ、さっき楽しみたいが勝つって言ってたけどさ、あれってどういう意味?」
「ん?何が勝つ?」
「さっき、練習より楽しみたいって方が勝つって言ってたでしょ?その楽しみたいってのが何なのかいまいち分からなくて」
「あぁ、それね」
と言ってから小春は急に笑って、
「知りたい?」
と聞いてきた。
「もう、いじわるしないで教えてよ」
と僕が言うと、並んで歩いていた小春は小走りで僕の前に立って、
「私の楽しみはねぇ、結多と一緒に演奏することだよ」
と言った。
「いや、そうじゃなくてさ、もっとこう、音楽に対する意識、みたいな感じでしょ?」
「まったく、結多は固いなあ。じゃあ逆にさ、結多は私とやってて楽しくない?」
「いや……楽しい、けど」
と僕が言うと、また小春は笑って、
「ほら!それだよ、それ」と言って僕の肩を叩いた。
結局、僕は折れてしまって、
「ホントかよー」
と言ってこの話は終わった。その日はそれ以降特に意味のない話をしながら二人で帰った。
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