雨に沈む桜

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* * * 花見の時期であるのにも関わらず、まるで呪われているかのように裏山の展望台には一人の訪問者もなかった。 わたしは桜の幹を撫で、その懐かしい感触を指で確かめながらそっと目を閉じる。 そう、わたしが埋めた。 雨に濡れてとうに冷たくなった原田の身体を、わたしが桜の木の下に埋めたのだ。 彼を沈めたのはわたし。沈めたのはわたしの罪。秘密を誰にも打ち明けなければよかった。彼と時間を共有していられる、ただそれだけでよかったのに。 あの日、混乱した頭で確かに彼を犯罪者にしたくないと思った。だってこれでは、彼があまりにも可哀想だ。彼は誰も殺していない。土屋は勝手に転げ落ちて死んだのだ。 だからわたしは原田を埋めた。桜の下に彼を埋めた。 命を懸けてわたしを守ってくれた彼を、今度はわたしが守るために。 けれど最後に、わたしは罪から逃げたのだ。この展望台には、あの日以来一度も訪れなかった。 そして、すべてが露見することに怯えながら、母の死後、すぐにこの町を出た。 彼を土の下に置き去りにして───。 「おかあさん」 突然の沙奈の声に、振り返る。 いつ目を覚ましたのか、沙奈がわたしの背後に立っていた。そのさらに後ろに佇む誠二は、真剣な、けれどどこか穏やかさを含んだ顔をしていた。
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