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わたしが何も言えないでいると、誠二が先に口を開いた。
「過去は変えられないんだ。どれほど強く望んでも、戻ることは叶わない。───それでも」
この場所から目を逸らし続けたことが最後の罪。
雨は降らない。誰もわたしを責めてはくれない。
「犯した罪があるのなら、俺も一緒に償おう。消えない罰があるのなら、俺も一緒に受けよう」
桜の花びらが舞い散る。
その先に待つのは、終わりなき贖罪の人生。
「志乃、一緒に生きていこう」
この人はずっと前からわたしの罪に気付いていたのかもしれない、と思った。
隠していたはずの真実を見抜いた上で、それでもわたしとともに生きていてくれたのだと。
堰を切ったかのように涙が溢れ出す。
───ねえ、原田くん。
わたし、あなたのことが本当に好きだったのよ。
「おかあさん、泣かないで」
わたしはそう言って涙ぐむ目の前の沙奈を抱きしめて、子供のようにどうしようもなく泣いた。
ごめんなさいと泣きじゃくりながら、原田と引き換えに得た幸せを噛み締めるように、わたしは桜の下でいつまでもいつまでも沙奈を抱きしめていた。
【雨に沈む桜 完】
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