5人が本棚に入れています
本棚に追加
瞬間、沈めていたはずの記憶が、ふつふつと蘇ってきた。まるで静かな海の底から呼び起こすかのように、冷たい土の下から這い出すかのように。
十四歳、わたしの罪は桜の木の下から始まる。
* * *
学校の裏山を登れば、ベンチが一つだけ置かれた展望台がある。とは言っても歩道がほとんど整備されておらず、そのためか人が訪れるのを一度も見たことがない。
そこへ行くのがわたしの放課後の日課だった。ベンチの傍には一本の大きな桜の木が立っていて、わたしはいつもベンチに座ってぼんやりとそれを眺めていた。時にはそこで読書をして、時にはベンチに横たわり死んだように眠った。
その日も、わたしは学校を終えたあとで裏山を登っていた。少し肌寒くて、森の息遣いが聴こえてきそうなほどに静かな空間に、まだ咲いていない桜とわたしだけが存在している。わたしを受け入れるかのように、いっぱいに蕾をつけた枝がざわざわと揺れた。
わたしはふと、ベンチの上に白い便箋が置かれていることに気付いた。
風に飛ばされないよう重石を乗せたその手紙は、わたしに宛てたものだった。【柏木志乃さんへ】と書かれたその手紙に、わたしは困惑しながらもそっと手を伸ばした。
最初のコメントを投稿しよう!