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やがて陽が傾き始め、展望台から見える町が少しずつ橙色に染まってゆく。今日はもう帰らなければならない。どれだけあの家が嫌でも、わたしは結局そこへ帰って行くのだ。
無力で抵抗する術を持たないわたしは、ただ目の前の大きな力に押し潰されるだけ。苦しくて苦しくて仕方のない灰色の日々の中で、わたしの心が死んでゆく。
そこに突然、一筋の光が差した。
それが彼だった。
教科書を抱え、次の授業のために教室を出る。ギャハハという笑い声とともに、学校に遅刻した人たちの集団が昇降口の方から歩いてきた。
そのうちの一人と、ふと目が合った。原田という、目つきの悪い同学年の男子生徒だ。校則違反の茶髪に、ピアス。原田は隣を歩く友人に話しかけられて、すぐにわたしから目を逸らした。
「最近原田って、図書館ばっか行ってねえ?」
すれ違う瞬間、そんな会話が彼らから聞こえてきて、わたしは一瞬足を止めた。けれど手紙の差出人と原田がどうしても結びつかず、そんなはずはないと思い直して、再び歩き出した。
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