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彼との文通は、毎日のように行われた。桜の蕾が膨らみ、開花の時期が近づくのにつれて、わたしと彼の距離も近づいているように感じた。
【おすすめの本、読んでみました。本のまとう空気が、まるであなたのようだと思いました。きれいで、どこかはかなくて。】
ずっとこの場所で手紙のやり取りをしていたいと願った。彼のおかげで、自分という存在がひどく綺麗なもののように思えた。
本当のことを知ったら、彼は何と言うのだろう。こんなわたしでも、受け入れてくれるだろうか。
───わたしと一緒に生きてくれるだろうか。
わたしはいつものようにノートの一ページを丁寧に破いた。
手が震える。
【ごめんなさい。】
その時、鞄の中の携帯が、危険を知らせるようにブルブルと小刻みに震えた。
【あなたには、わたしの本当のことを知っていてほしいのです。】
土屋からだった。早く帰って来い、という主旨の、脅迫まがいのメール。
【わたしは、あなたが思うほど綺麗じゃない。】
母の恋人に犯られてるの。
母も黙認しています。
逃げ場はどこにもない。
毎日が怖くて汚くて、生きるのが苦しい。
消えたい。
救いが、ほしい。
だから、わたしと一緒に生きてくれませんか?
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