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母の墓参りを終えて、帰路に就く。沙奈はついに誠二の背中で眠ってしまって、すうすうと寝息を立てている。
「あと一時間は起きないだろうなぁ」
誠二が背中の沙奈を振り返って苦笑する。わたしは、そうだね、と無理に微笑んでみせた。
暖かい日差しが降り注ぐ、芦名田町の春。またここに戻ってくることになろうとは、夢にも思わなかった。
長い坂を下りた先、閑静な住宅街の中にぽつんと掲示板が立っていた。わたしが生まれた時から存在する、白い塗装の剥がれきった掲示板。
───捜しています。
ふとその文字を見つけて足を止めた。真新しい紙に、成犬の写真と名前が印刷されている。日付は最近のものだった。
無意識にほっとしていた自分に気付いて、わたしは隣の誠二を見遣った。誠二はそのチラシをじっと見つめて、何かを深く考え込んでいた。
どうか、気付きませんように。わたしの罪に気付きませんように。
そう心の中で祈っていると、誠二がふとわたしを見た。どきりとした。
「この犬、昔飼ってた犬にそっくりなんだよ」
見つかるといいなぁ、と懐かしげに目を細めると、誠二は掲示板を背にして再び歩き始めた。しかし、ふと何かを思い立ったらしく、少年のような無邪気な顔でわたしを振り返った。
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