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* * *
裏山の桜は、春を迎えて大きく咲き誇っていた。
この時を待ち侘びていたかのように、おそろしいほど美しく、鮮やかに。
桜の下には原田がいた。
茶色の髪の上にたくさんの桜の花びらを乗せ、その身体を風に弄ばせてくるくると回りながら。
「───ねえ」
原田の首にはロープが巻かれ、そしてそれは真っ直ぐに桜の木の枝へと繋がっていた。
風がびゅうと強く吹いて、無数の桜の花びらが舞い上がる。同時に原田の身体が振り子のようにゆらゆらと揺れた。
「あなた、」
原田は首を吊って死んでいた。
「わたしのこと、好きだったの」
差出人は原田だったのだ。
彼と一度もこの場所で鉢合わせなかったのは、彼が遅刻常習犯で、わたしが授業を受けている間に手紙を置いていたからだった。
桜の花びらがわたしの顔の横をすり抜けていく。吐き出したい言葉が喉の奥につかえて上手く話せない。
どうして───
どうして土屋をころしたの。
土屋が死んだ。昨夜駅前の居酒屋で飲んだ帰りに、歩道橋の階段から転げ落ちて頭を強打したのだという。
けれどわたしは土屋の死を素直に喜べなかった。転落死と聞いた時からずっと、なぜか胸がざわついていた。嫌な予感がしていた。
こんな結末は、誰も望んでいなかったのに。
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