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フィルムを開けることもできないままの紙巻の入った小箱を握って、ベッドに寝転がる。ライターのカチリという音と、たちのぼる紫煙を想って、目を伏せた。
「猫じみたことしやがって」
は、と薄く笑って、ひとりごちた言葉を散らすように目を開ける。何の変哲もない白い天井が視界を満たして、何を思うでもなく煙草の箱の角を指の腹で撫でた。
「……あ」
不意にリンクしたのは、壁に留めてある写真の景色と眼前のそれだった。いつのまに撮ってたんだよというツッコミの前に、クロは、これをどんな思いで見て、どんな思いで切り取り、俺に寄越したのだろうかと、そんなわかりもしないことを思う。
手紙が届いたのは、クロが出かけていってから11日後のことだった。だから、これはどう考えたって、別れの手紙だ。そもそも何も始まっていなかった二人にしては、丁寧すぎるほどの別れだろうとも思ったけれど。でも。
「……勝手に終わらせてんなよなぁ」
冬だって、春だって、まだまだたくさん、やることはあっただろうに。
夏にカタをつけたって、また来年には夏がやってくるのに。
自分勝手で適当な隣人は、冬に残るほんの少しの夏の余韻を連れていなくなった。
チャイムの鳴らない室内で、煙草の箱にそっと口づける。クロの薄い唇、小さな口。平均よりほんの少し冷たいような唇の温度を、俺はまだ、忘れられないままでいる。
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