16人が本棚に入れています
本棚に追加
たぶん10日。
それが何の数字か、どういう意味をもつものなのか、結局わからないままで週末になった。残されていた一枚の写真は、見たことがあるようなないような、なんだか虚しい、どこかの屋内の光景らしかった。
適当に壁にピン留めしたそれをぼんやり眺めながらビールを飲む。ふと顔を上げてベランダの外を見るも、曖昧な淡い曇天が広がっているだけだった。
ピンポンと短いチャイムが鳴る。少しのためらいのあと、缶をテーブルへ置いて、玄関へと向かった。
「宅配便です」
「あぁ、どうも」
お疲れ様と声をかけて、判子の代わりに走り書きのサインで返す。ドアを閉めてから差出人を確認して、そこが空欄であることに気が付いた。一瞬、これまで一夜限りの関係や体だけの関係を重ねた相手たちを思い返して、われながら碌でなしだなと小さく苦笑する。幸か不幸か、そんなに繊細なメンタルをしているわけではないものだから、玄関に背を向けながら封を切る。それでも一応、カッターの刃が入っていたりはしないかと多少の用心はした。
「……なんだそりゃ」
手紙と、煙草。たったそれだけの贈り物に、思わず笑ってしまう。別に珍しくとも何ともない、いつも自分が吸っている銘柄の煙草は、まぁ単純に有難くはあったけれども。
大事に吸えよ。
たったそれだけのメモ書きみたいな手紙に、けれど、クロはもう帰ってこないのだということを思い知らされるような気持ちになった。なんだそりゃ、ともう一度小さく呟いて、浅く笑う。おもむろに手にした煙草の箱の裏に、「終わらせてくれてありがとな」というメッセージを見つけた。見つけてしまって、笑った。
「バカ、こういうのを手紙に書くんだろうがよ……」
パッケージに書かれたら、フィルムを剥がしたらなくなってしまうじゃないか。
適当な奴だなと笑って、クロの気怠げな声のトーンとか、癖っ毛だとか、あのやる気なさげな眼差しを思い出して、どうしようもなく、会いたいなと思った。会いたいなと思いながら、多分もう二度と、クロは帰ってこないんだろうとも思っていた。理由も、手紙の意味も、単純な俺の頭じゃ理解することはできないとも、思ったけれど。
あの夜見た花火の光の残像は、もうほとんどが過去になっている。あんなに鮮烈にも見えたのに、思い出そうにも思い出せない曖昧な光。
最初のコメントを投稿しよう!