エンドロールに口づけを

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 夏。茹だるような熱気に囲まれながら、俺たちは初めて身体を重ねた。どうしてだったか、なんてことはいちいち覚えていない。特別な理由もなく、酒の勢いというわけでもなく、ただなんとなく、俺はクロを抱いていた。  クロは必死に俺の熱を受け止めながら善がった。気怠げないつもの眼差しに熱が滲むのは、控えめに言っても、ひどく魅惑的で扇情的だと思った。白くて細い躰は頼りなくて、貧弱で、同じ歳の男とは到底思えないような薄っぺらさをしている。長身の上に肉体労働が多い己とは、まさに真逆のような躰だと思った。  唇を重ねて、熱をわけあって、だらだらと汗をかきながら、クロの奥を抉るように身を寄せる。クロが眉を顰めて、薄眼を開く。涙の滲む瞳がぬらりと光って綺麗だった。 「……みのべ、」  名字を呼ぶクロに、答える代わりに腰を引き、穿つ。いい声をあげるクロに口元を緩めれば、細い指が額に伸びてくるものだから少しだけ警戒した。抗議めいたアクションが続くかと思っていたそれは、どうやらただ俺の額の汗を拭うだけのものらしく、クロはその細い指先で俺の汗を拭った。なんとなく心地が良くて薄めた瞳に、クロがほんの少しだけ、笑ったように見える。  組み敷いた先の、クロの視線がどこか遠くを見ているようで、なぜだか少しだけ、不安になった。 「クロ」  こっちを見ろと、そんなことを言えるほど、自分たちの関係は近くない。  結局それきり何も言えなくなって、ただ快楽に身を任せるようにして腰を動かした。高まる熱は、何かもかもを有耶無耶にして、分からなくさせるのには丁度良かった。
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