エンドロールに口づけを

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 クロは、どことなくアンバランスな男だった。  年齢の割に幼い顔立ちや体格もさることながら、その内面は妙に達観して、ひどく刹那的で淡白だった。衣食住に興味を示さず、カメラや映像に向き合う瞬間にだけ異常な集中力を発揮する。ベッドの中で乱れる様は、いつしか俺の安堵を誘うようにさえなった。それくらい、普段のクロには生命力が感じられない。生きていくためのやる気のようなものが、彼には欠如しているようにも見えた。 「花見しようぜ」  季節がすっかり秋から冬へ移らんとしている頃に、クロは突然部屋を尋ねてきてそんなことを言う。深夜3時。さすがに眠くてムカついた。 「お前ふざけんなよ、桜なんて咲いてねーって」  ついでに言えば梅もまだもう少し先だ。とっとと戻って寝ろと追い返そうとした玄関で、クロがずいと俺の目の高さに何やら袋を差し出してくる。近すぎてピントが合わない中で、クロが言った。 「夏は冬がくる前に片付けねーと」  は?とその手首を掴んで適当な距離に下ろさせれば、それはどうやら花火のセットらしい。馬鹿かよとツッコミを入れようとして、けれど、クロの憮然とした表情を見ていると、なんとなく何も言えなくなった。何も考えていないようにも、寂しくてどうしようもないようにも、平然としているようにも、泣くのを堪えているようにも、見える気がした。  がしがしと乱暴に髪をかき乱して、くぁっと大きなあくびをひとつ。なんて迷惑な隣人だよと考えながら、「ちょっと待ってろ」と上着を取りに戻った。ついでにマフラーもとってきて、スウェットしか着ていないクロにぐるぐると巻きつけてやる。風邪でも引かれたら、なんとなく腹が立つからだ。
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