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「三十路のおっさん二人で花火って結構やばくね?」
ぱちぱちと爆ぜる光の粒を見ながら、冷たい空気に身を震わす。すっかり眠気は覚めてしまった。まだ日が昇るのは先だろう。
黄色とも赤色とも緑色ともつかない花火の光を、大の大人の男が二人して眺めている。世も末なのか、この国は平和すぎるのか。クロと違って難しいことを考えるのが苦手な頭は考えるのを放棄して、やれやれと隣の男に視線を注ぐ。相変わらず気怠げな雰囲気のまま、クロはぼんやりと光を見ていた。
「やべーのは元からじゃん」
きつい光に照らされるクロの睫毛が緩慢に上下する。身も蓋もないことを、と思いながら息だけで笑いを浮かべていれば、クロが手にしていた花火が虚しい音をたててふつりと絶えた。
くるり、くるりと、クロがそのか細い線を弄ぶ。まるで、退屈な子供みたいに。
「おら、満足かよ」
嫌味を込めて聞いてやったら、クロはちらりとこちらを仰いで、ふっと笑った。
「ばか。死んじまうだろ、満足なんかしたら」
一瞬、虚を突かれて。何言ってんだこいつと思いながら、次の瞬間にはやれやれというような心地に満たされていた。クロは不意に、こういうややこしいことを口にしては、気怠げに笑う。まるでいろんなことを諦めているようにも、すべてを楽しんでいるようにも見えて、その確かな曖昧さが、クロをクロたらしめているのだ、と思う。
「死なねーよ、満足したくらいじゃ」
俺のまっとうなツッコミにも、クロは静かに口角を緩めて瞳を細めるのみだった。瞬きの後には相変わらずの雰囲気を身にまとったまま、だらりと肩を揺らして笑う。満足げなその表情に、言いようのない寂しさのようなものも見えるような気配がして、けれど単純な俺にはそれ以上を理解することもできなくて、したくもなくて、がしがしとクロの頭を撫でた。「うわ」とかいう声を無視してふわふわと柔らかな髪をかき混ぜて、「死なねーよ」ともう一度、口に出した。クロは一瞬薄く空気をのみこんで、それから、笑った。
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