徒花に呑まれる

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私達がメニューをテーブルの上に広げたタイミングで店員がお冷のグラスとおしぼりを運んできた。 「何にしようか。前は何を食べたっけ?」 私はそう呟きながらパラパラとパスタとピザの名前だけが並ぶシンプルなメニューのページをめくる。彼が首をかしげる気配がした。 「うーん、もう忘れちゃったよ」 「うん。私も憶えていない」 「あ、これいいんじゃない?ディナーセットだって」 彼がラミネートされたメニューを手に取る。前菜とスープ、パスタまたはピザ、食後の飲み物と小さなデザートがセットになったお得なセットがあるらしい。前に来た時はこんなセットメニューはなかったはずだ。 ラミネートされたメニューを見ながら彼は『へぇ』と何かに感心したような声を洩らしていた。 私はテーブルの上に広げていたメニューを閉じ、彼が手にしていたラミネートのメニューを指差した。 「もう面倒だからセットにしよう。何があるの?」 「ピザかパスタを選べるんだって」 そう言って彼がテーブルの上にディナーセットのメニューを置く。 ディナーセットはパスタとピザの選択肢が5種類ずつしかないようだ。 ここまで絞ってもらえた方が優柔不断な人間には有難い。なんせこの店は普通メニューは料理の種類が多すぎる。そのせいで前に来た時、私はいつまでも料理が決められなかった。 「じゃあ、せーので選ぼう」 「え?なんで?」 私がそう提案すると、向かいの席の彼が笑い声を零した。 彼の笑った声は心地よくて、もっとふざけた事を言って彼を笑わせたいと思ってしまう。 「私が先に選んだら、青戸(あおと)くんは気を遣って違うのにするでしょ?」 「そんな事はしないよ。僕は今食べたい物を食べるタイプの人間だし」 「そうだっけ?」 「そうだよ」 メニューを広げたテーブルの上で下らない会話を交わしながら私はメニューへ視線を落とした。
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