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今日は絶対パスタだ。でも今はオイルソースにもトマトソースにも魅力は感じない。
選択肢はいくつか用意されているけど、今日この店に来ると決まった時から私が食べたい料理は一つしかなかった。
「決まった?」
彼が水を一口飲んで私に問い掛ける。私はメニューを見つめたまま『うん』と頷いた。
「じゃあ行くよ。せーの」
彼が無邪気な声でそう言い出すので、驚いた私は『え?』と間抜けな声を零してしまった。
「結局それなの?」
「ほら、せーの」
彼が私を急かす。心地よい彼の掛け声に合わせて私達は同じタイミングでメニューの上に右手の人差し指を落とした。『カルボナーラ』の文字の上で私のアクアブルーの爪と彼の無色の爪がぶつかった。
数秒の沈黙の後、私と彼は顔を俯けて吹き出した。
「被ったな」
「被ったね」
一頻り笑った後、彼はいつものように右手を上げて店員を呼んでいた。
憶えているだろうか。6ヶ月前に初めてこの店を訪れた時も、彼は迷わずカルボナーラを選んでいた。そしてそれを美味しそうに食べていた。
あの時の幸せそうな顔が忘れられなくて、私は今日あの時の彼が食べていたカルボナーラを選んだ。
今日の彼はどんな気持ちでカルボナーラを選択したんだろう。
単純に今日もカルボナーラが食べたいと思ったんだろうか。それとも半年前にカルボナーラを食べたから同じものを選んだんだろうか。
ねぇどっちなの?店員に注文を伝える彼──青戸くんの横顔を私はじっと見つめていた。
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