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「……貫一さんのメニューに不満があるわけではないんです。だけど俺は、どうしても貫一さんにパンチを出せないし、体格的にもスパーリング相手にはできない。だから三輪さんに付き合ってもらえて、本当に助かっているんです」
ぺこっと頭を下げる。
「すみませんが、このトレーニングのことは内緒にしてください」
「OK、OK、わかってるって」
三輪さんは手をひらひらと振ると、ふぅと小さく息を吐いた。
「……うちの会長、君を褒めてたよ。優れた素質を持つ有望な選手だって。あのひとがそんなこと言うの初めてだったからびっくりしたよ。
……僕も、君ほどポテンシャルがある選手、初めて見た。悔しいけど、君とは何度戦っても勝てない気がする」
「そんなことないですよ。俺が勝てたのは三輪さんが手加減してくれたからです」
「意地悪だね。そうじゃないってわかってるくせに」
「1ラウンド目は手加減してくれたでしょう?」
「始めはね。だけど途中からそんな余裕なくなってたよ。……それに、もし僕が全力で挑んだとして、君は負ける気しないでしょ?」
「当然です。勝つつもりで戦いますから」
三輪さんは肩をすくめて苦笑した。
「いいね、強気で。……いや、そうでなきゃダメなんだよね。弱気なボクサーなんて、リングに上がる前に負けてるんだ。……よし、僕も頑張るよ。また君に再戦を挑めるように」
「はい」
「じゃあ次、スパーリングしようか」
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