二度目の大晦日

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お前は、ただ智典を手放したくないだけなんだろ。 こいつは才能の塊のような男だ。ちょっと教えただけでメキメキ強くなる。そんな選手を育てるのは楽しいよな。楽しくて楽しくて、夢中になっているうちに、こいつは全国新人王にまでなっちまった。 こいつは、期待に応えてくれる。こいつになら自分が果たせなかった夢を重ねられる。 また夢を見れる嬉しさに、酔っているんだ。 ……絶望しかなかった。願いは叶わないとわかっていた。でも諦められなかった。諦めたくなかった。そんなエゴを、智典に押し付けている。 なんなら自分の身体を餌にしてでも、こいつにボクシングさせたいって思ってる。 こいつの好意を、お前は利用しているんだ。 自分が夢を見るために。 うるさい、うるさい……! 振り払おうと寝返りを打って、智典のほうを向いてしまった。薄明りにぼんやり浮かぶ横顔。それは美しいけれど男らしい。 戦っているときは尚更その男らしさが増す。 思わず見とれてしまうほどに。 それに、こいつは素質にも恵まれている。 俺が喉から手が出るほど欲しかったものを持っている。 正直、妬ましさはある。 心の中にいる昔の自分が、羨んだ眼差しをこいつに向けている。 だけどその一方で、怖がっている。 ……こいつは、まだ知らない。
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