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三輪さんもグローブを着け、互いにヘッドギアを装着してマウスピースを咥えた。
三輪さんが繰り出すジャブを、俺は振り子のようなウィービングで右、左とかわしていく。
そこから続けて放たれたコンビネーションの右ストレートを、斜め前に頭を滑らせるヘッドスリップで避け、その前傾した勢いで三輪さんのボディへ拳を入れる。
練習用の大きなグローブをはめているので試合用のグローブより与えるダメージは少ないが、だからといって全力で殴ったりはしない。タッチする感じだ。
互いにパン、パン、と軽く当て合うスパーリングを3分間して1分間休む。そのサイクルを3回転し、午前中に考えたコンビネーションをいくつか出したところで、ピピピピ……とタイマーが鳴った。
グローブとマウスピースを外して、呼吸を整えながらヘッドギアを脱ぐ。
「やっぱりゴング音のアラームじゃないとしまりませんね。今度買ってこようかな」
「あはは、いいんじゃない別に。僕は気にしないけど」
三輪さんは笑うと、バンデージも解いてストレッチに入った。俺もそれに倣う。
雑談を交わすなかで、プロの話になった。
その流れで、気になっていたことを訊ねる。
「三輪さんはどうしてプロでやらないんですか? 全日本社会人選手権で3位になれる実力があるのに」
「僕、仕事あるから」
「小学校の先生でしたっけ。でもプロのほとんどはボクシング以外に稼業を持っているでしょう?」
まぁそうなんだけどね、と三輪さんはぎこちなく笑った。
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