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「父さん、俺、ボクサーになりました」
「は?」
ぽかんとする父さんに、財布から取り出したプロのライセンスカードを見せる。
父さんの眉間にしわが寄った。
「……どうりで、肩まわりの筋肉が美味しそうになってると思った。……でも、なんで? ボディビルはどうするんだい?」
「どうするもなにも、ボディビルはやりませんよ」
「おいおい智くん、なにを言ってるんだ。確かに今はビルダーにしてはあまりにスリムだけど、智くんはもともと僕に似て筋肉が発達しやすい体質なんだ。だから小学生のころは美形キングコングと呼ばれていたじゃないか。キングコングの本能を思い出してくれ、智くん。君はその気になればいくらでもサイズを増やせるんだよ」
「サイズを増やす気はありません」
そんなことをしたらミドルウエイトに引っかかる。絞ったまま質を高める方向で鍛えたい。
だが俺のこの鍛えようシグナルを、父さんは敏感に察知したらしい。前のめりに説得してくる。
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