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「ふぅん。確かにそれができれば、とりあえずの実力は証明されるね。……わかったよ。新人王になったらボディビルをやれとはもう言わない。ボクサーとして生きる智くんを応援しよう」
そう言って、父さんはむきっと力こぶをアピールするポーズ――フロントダブルバイセップスを決めた。
「世界という言葉には、僕も弱いしね」
「ありがとうございます」
礼を言うと、父さんは相好を崩しつつ、今度はサイドチェストを決めながら探るような視線を向けてきた。
「……でも、この数年まったくうちに寄り着かなかった智くんが、ボクシングを認めてもらうためだけに帰省なんてしないよね? むろん大晦日だからなんて理由で帰ってくるはずがない。僕に何か頼みごとがあるんじゃないのかい?」
普段はゆるい調子だが、こういうところは鋭い。俺は改めて居住まいを正した。
「……お願いがあります」
「お願い?」
「俺が新人王を獲得したら、日本チャンピオンの柳瀬さんと試合ができるようにしてもらえませんか?」
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