煩悩と決意の大晦日

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「僕を頼る前に、智くんが所属しているジムの会長さんに頼むべきなんじゃないの? ……そういえば、智くんの所属しているジムの名前は?」 「吉田ボクシングジムです」 「吉田? 聞いたことないな。智くんが通っているなら福岡のジムだよね。今まで輩出してきた選手は誰?」 「……過去に10名ほどプロを出していますが、A級に至ったのは2名だけで、どちらもタイトルを獲るような活躍はしていませんので名前を言っても知らないと思います」 「え!? 智くん、なんでそんなところに入ったの? そんな実績もない地方ジムにいたら、いつまで経っても世界に挑戦できないよ」 そんなところ、と言われてムッとしたが、仕方ない。それは事実だ。 俺はボクシングに関して無知だったが、世界を目指すと決めてから勉強して、父さんが言う「現実」を知った。 自主興行を打つ資金がない(そのうえプロモーターもいない)弱小ジムの選手が試合をするには、他所のジムの興業に対戦相手として招いてもらわないといけない。 けれどその興行主のジムが求めているのは、自分の所属する選手を勝たせてくれる相手……つまり、噛ませ犬だ。 それが嫌なら大会などに出るしかないが、それだってそう頻繁に行われはしない。
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