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大会を探しては挑み、少しずつランクを上げていくやり方は時間がかかる。かといって、一気にランクを上げられるような相手と「対等に」試合を組める力は、吉田ジムにはない。
「……だから、父さんに頼んでいるんです」
「コネを使うのは別にいいよ。智くんが世界を目指すなら応援したいし。……でも、どう考えても今のジムにいることが智くんのプラスになるとは思えない」
父さんは腕組みして諭すように言う。
「智くんも知ってると思うけど、ボクシングにおけるランキングは単純な強さの順ではないんだよ。ボクシングはショービジネスだから、人気があって客を集められる選手は取り立てられる。……その取り立てには、ジムの影響力も大きい。有力なジムに所属すること自体がアドバンテージになるんだ。なんなら、StormRatに移籍したらいいよ。僕から蒔彦に頼んでおくから」
「それじゃあ意味がないんです。吉田ジムじゃないと、……貫一さんがいないなら戦う意味がない」
「貫一さん?」
「吉田ジムの会長で、俺のトレーナーです。そして、俺の最愛のひとです」
父さんが目を剥いた。
「……一応聞くけど、男だよね?」
「はい」
父さんはハァーと息を吐き、眉を歪めて俺を見た。
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