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「当然だよ。かわいい子には旅をさせろってね。……世界なんて言われたら、あまり楽させてあげられないからね。でも漆原くんと試合できるだけでも智くんのキャリアにとってプラスだろう」
「そうですけど……でも、それじゃ世界に挑むのが遅くなってしまう」
「急がば回れっていうだろ。結果を出すには実力を育てるためのスタンバイ期間が必要なんだ。……智くんは、この程度の時間も我慢できないような男の器なのかい?」
うっ……
「どんな努力も惜しまないんだろう?」
にっこりと白い歯を見せられて、渋々頭を下げた。
「……わかりました。よろしくお願いします」
うんうんと頷く父さんに愛想の良い微笑みを見せて、すっくと立ち上がる。
「じゃあそういうことで、良いお年を」
ぺこっと一礼して玄関へ向かうと、父さんが慌てて追いかけてきた。
「え、もう帰るのかい!?」
「はい。帰りの飛行機も予約済みです」
「本当に頼みごとのためだけに帰ってきたんだね……」
父さんはがっくり肩を落としたが、無理に引き止めてはこなかった。
「……まぁいい、空港まで車で送るよ」
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