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「貫一さん……」
毛を逆立てる野良猫にするように、貫一さんへゆっくり右手を伸ばす。
「俺を怖がらないでください。あなたに触れたいけど、それは性的なものでなくてもいいんです」
心の中で「今は」と付け加え、警戒する目つきの貫一さんに甘えた声を出す。
「手を繋ぐだけでいいですから……」
上目遣いでしおらしく頼むと、貫一さんの頬が朱く染まった。胸をガードしていた腕をおそるおそる解いて、俺の手を握ってくれる。
やった。
俺が心の中でガッツポーズしていると、貫一さんはもう片方の手で畳の上に置いていた酒とコップを引き寄せて手酌した。
ワーワーと賑やかなテレビ画面では、キックボクシング選手とフルコンタクト空手選手が戦っている。それを眺めつつ、何気なく話を振る。
「貫一さんがボクシングを始めたのは、やっぱりお父さんの影響ですか?」
「まぁそうだな。……子供のころ、親父は俺のヒーローだったんだ。滅多に勝つことはなかったけど、何度打たれても絶対にKOしなかった。ボコボコにされても最後まで立ってた。それがすごくかっこいいと思ったんだ。
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