煩悩と決意の大晦日

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「……でも、楽しいだけじゃやっていけない。いくら試合をしてもファイトマネーはほとんどもらえないし、うちみたいに小さな地方ジムじゃ、その試合を組むことすら大変だ。せっかくプロになった奴らも経済的な理由で辞めちまった。 だから、そいつらのぶんも俺が頑張ろうと思った。17歳になったらすぐにプロテストを受けてプロになるんだ、勝って勝って勝ちまくって親父が果たせなかった日本チャンピオンになって、このジムを盛り立たせるんだって……でも、プロになって、自分の甘さを痛感した」 「甘さ……?」 「俺はフェザー級だったが、日本は軽量級の層が厚いから同じ階級に強い選手がゴロゴロいる。その中で頭角を表せるのはほんの一握りだ。ほとんどのボクサーがチャンピオンどころかランカーにすらなれず終わっていく。……夢や理想じゃ生き抜けないシビアな世界だった。そうとは知らずに飛び込んでしまった俺は、泥臭い試合を重ねるたびに泥に埋もれて、下の方をずっとさまよってた」 「え、でも、長浜さんには勝てたんでしょう?」 三輪さんから聞いた話だが、長浜さんはフェザー級で日本ランキング3位になったことがあるらしい。
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