~あまつかぜ~

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 高校の生徒会。  この単語を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。  学校行事の柱。  点数稼ぎ。  リア充。  エトセトラ。  エトセトラ……。  人によって考えることは違うだろう。  しかし、僕にとっては。  この場は、好きな人に会える、数少ない場であった。 「やぁ、ヤナギー。相変わらず早いね」 「あ、先輩。こんにちは」  一年生である僕をヤナギーとゆるく呼ぶのは、この生徒会をまとめる生徒会長その人だった。 「書類の整理?」 「はい、三年生の送別会以来処理してなかったので」 「そうかそうか。ありがとう」  ふう、と一息吐いて椅子に座る先輩。  疲れの色が見てとれる。 「疲れてるんですか?」と率直に聞いてみる。先輩は様子見をはらんだ言葉が嫌いだからだ。 「あぁ、引っ越しの手伝いが連日続いててね」 「そっか。そうですよね」  何の気なしに、受け流す。書類を集める手が、無意識に止まった。 「ヤナギーも疲れたなら、座ればいいよ」  先輩の気遣いに生返事をして、僕は近くの椅子に座った。  先輩は引っ越す。  それも隣の県とかではなく、遠く海外へ。  親の仕事の都合なのだという。全く不満げではなかった。むしろ先輩は喜んでいたようにも見えた。  知らないことが好きな先輩だ。おそらく未知の世界への興味で不安など消えているんだろう。  でも、僕は。 「先輩って、好きな人とかいるんですか?」 「へ?」  遠いどこかを見つめていた先輩が、僕を見た。  視線があって、自分が吐いた言葉を自覚する。 「す、すみません。変なことを」  何を聞いているんだ僕は。  そんなことを聞いてどうしようと……、 「そんなことを聞いて、君はどうするんだい?」 「へ?」  立場が逆転した。  先輩は僕から目をそらさない。 「私に好きな人がいるとしたら、いないとしたら、いるとして誰だとしたら、何かするつもりだったのかい?」 「いや、えっとその」  言葉がうまく出てこない。頭がうまく回らない。思考がうまくまとまらない。  体が思い通りにならず、変な感じだ。 「くっ、ふふふ」  口を押さえて、それから、押さえきれずに先輩は大笑いした。狭い生徒会室では大きい声はより大きく聞こえる。 「すまない。単なる冗談だ」  先輩は冗談が好きだった。 「まぁ、そうだな」
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