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(ガキの頃に見た…うす紅の…あれは)
うす紅の渦が、あたり一面を吹き荒れている。嵐のように荒れ狂った渦だ。その中にぼんやりと見えた。
見ちゃいけない!しかし…。
ピシッ!
「いってぇ!」
あまりの痛さに飛び起きた。踏み抜いた毛布から出ていた向こう脛にくっきりと赤い筋がついていた。
「うっわぁ…あれほどもうやるなって!」
毛布を頭からひっかぶった。毛布の上からなら、大丈夫。だが、そうはいかなかった。
「つっう!」
潜り込んできて、また同じところを!
トキが毛布の中で脛をさすり、手に触れた硬く細長いものを捕まえてひっぱり上げた。
「おまえ!いい加減にしろよ!」
三十センチ定規ほどの長さのものが、キーッと鋭い声を上げた。
「誰がいい加減にするんだ?」
毛布を勢いよくめくられた。
あわてて取り返そうとしたが、無駄だった。その拍子に捕まえていたものが毛布を手にした娘の背中に隠れた。
「毎朝、目覚まし代わりに起こしてやってるのに、ひどいねぇ」
いとこのアサギだ。トキは、ベッドの上に正座して、朝のデリケートな現象を抑え込んだ。
「だって、そいつ、脛をはたくんだぞ!何度も!」
あさぎの整った唇に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。「痛い思いしたくなかったら、こいつが来る前に起きるんだな」
そんな無茶な。それに、ずかずか『男』の部屋に入ってくるなよ。いろいろと微妙なことがあるんだから。
言えない文句を頭の中で呟いた。アサギが背中の細長いものに言った。
「キッキ、降りな」
細長いものが肩の上にひょいと出て来た。
なんで、こいつがここにいるのか。
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