1)朝の日常

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草深の祖父が亡くなってから、まもなく一年が経とうとしていた。アサギは、専門学校の試験に合格して都会のトキの家に下宿しにやってきた。老人の多い里のために介護士の資格を取ろうとしているのだ。資格を取ってもしばらくは都会で経験を積むと言っていた。バイトも介護補助スタッフの仕事を探してきた。勉強と実益を兼ねているわけだ。  トキは卒論で今から頭が痛い。バイトもそれなりにしかやってないのに、就職活動が出遅れているため、落ち着かない。 サヨはアサギの同居に娘が出来たと大喜び。旦那が海外赴任中で寂しさもあり、それまで余計なというほど息子の世話を焼いていたのに、手のひらをかえしたように面倒見なり、アサギの影響で、トキをこき使うようになった。 「叔母さま、今どきの男の子は、家事くらいできないと、お嫁さんに逃げられますよ、ちゃんとしつけておかないと」  犬並みである。いや、キッキよりも格下だから、犬以下。  大学に出掛けようと玄関でスニーカーを履いていると、サヨが買物リストを寄越した。 「学校の帰りにこれ、買ってきて」 「こんなの、かあさんが昼間買ってくればいいじゃん」  玄関先に来ていたアサギがきっとにらんだ。 「叔母さま、最近肩こりがひどいんだから、重いもの、もたないほうがいいの!」  はいはい。  アサギには反論無用。 ジャケットのポケットにねじこんでMTBにまたがる。駅までの二キロ半を快適に走る。後ろからアサギがママチャリで追い掛けてきた。ギア付きに勝てるか!  だが、どんどん距離を詰めてくる。 「うっそ!」  もしかして、電動アシストだったっけ? トキがピッチを上げた。高台地区から長い下り坂を駅前方面に降りて行く。その横を黒髪の風が通っていく。 「おっさき~!」  スカートが風をはらんでひらめいた。白いものが視界に飛び込んできた。 「うわっ」  ここで転んだら悲惨だぞ! 必死でハンドルコントロールした。アサギは、恐れを知らぬスピードで下っていく。朝からトキの連敗だった。
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