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今日はバイトなし、夕方、駅前のスーパーでリストの買物をし家に着いた。玄関先に車が停まっている。玄関のドアの前で、女が血相を変えて、アサギに向かって怒鳴っていた。
「あんたが鍵をちゃんと締めていかなかったから、いなくなったのよ!ボケちゃってるんだから、どっかで事故にでもあったら、どうするの!」
思い出した。小学校のとき同級生だった神原の母親だ。アサギが厳しい顔をしていた。
「おじいさん、ボケてなんかいませんよ。あんな風に閉じ込めるのはよくないです」
神原の母親が余計に怒り出した。
「話になんないわ!佐久本さんもとんでもない人を紹介してくれたもんだわ!」
そのまま車に乗って行ってしまった。
「アサギちゃん…どうしましょう」
サヨがおろおろしている。アサギが、ママチャリに乗った。
「心当たりあるんです。探してきます」
トキがMTBで後を追うが今朝のスピードからすると、追い付けないかもしれない。
しかし、心配は無用だった。角を曲ったところでアサギは停まっていた。
「アサギちゃん」
深刻な表情だった。
「どうしたの?あのおばさん、神原んちの…」
確か、神原の家にはおじいさんがいたはず。ということは、バイト関係のトラブルか。心配だ。
「サヨ叔母さんが紹介してくれたんだ」
アサギがボケていないというのなら、そうなのだろう。でも、家族の意向を無視してやったことで事故にでもなれば、大変なことになる。
「心当たりって?」
アサギが一瞬戸惑ったような顔をした。当てがあるといったのは、サヨを安心させるためだったのか?
「あるにはあるんだけど…」
神原老人は、七十半ばでかなり落ち込んだ様子だったが、判断力がない状態とは思えなかったという。教師をしていたころの話や、今は外に出られなくて不自由だという話をシャンとしてしていたが、急に泣きそうな顔になって、
「木が切られてしまうって、桜の木が」
なんとか切るのを止めてほしい、あれはまだ枯れてないと言うのだ。
トキが首をひねった。神原の家には行ったことがある。あのあたりに桜の木があっただろうか。
「桜…か」
トキは走り出し、アサギが続いた。
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